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カンテラ通りの定宿

カードワース創作宿「ハロウィン亭」「逢う魔が時亭」「午前3時の娯楽亭」「墓穴の標亭」「星数えの夜会」&いくつかの合同宿の面々の徒然記。

2024/10/31

屍の恋人【CWリプレイ】


これでもう、
何も失うことはないのです。

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 CardWirth Scenario
『 屍の恋人 』
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シナリオ名:屍の恋人
製作者:uta 様
対象レベル:3~5
形式:探索シナリオ


 この記事はカードワースのリプレイです。ネタバレにご注意ください。
 BL要素が含まれます。


※ATTENTION※
 PCたちがシナリオにないセリフを話す・やまかしの解釈でモノローグを構成する等、独自の構成で書かれたリプレイです。
 そのため、このリプレイでは細かなニュアンスをシナリオ作者様の意図通りに読み取ることはできません。あくまで既プレイを前提としたエンタメ読み物としてお楽しみください。閲覧にあたっては、先にご自身でのプレイをおすすめいたします。
 シナリオに登場するNPC、スキル等の著作権はシナリオ作者様に帰属します。原文のまま掲載する文章もありますが、著作権を侵害する意図はありません。

◆今回のパーティ◆

※タンジェ、パーシィ、サナギ……やまかしPC
 黒曜、アノニム、緑玉……鳥子PC


【冒険者の宿 星数えの夜会】

 要するに、『ペット探しの依頼』であった。
 飯前にはなかった依頼書が貼られているのに目ざとく気付いたのはアノニムで、文盲の彼はそれを親父さんに指摘し内容を尋ねた。親父さんは、それは先ほど確認して貼り出したばかりだ、と言って、こう語った。

「そいつは木の葉通りにある名家のご子息からの依頼だぞ。大事に飼っているペットが脱走してしまったらしい」

 人に迷惑が及んだり、物売りに捕まっては困るので、今日一日探すのを手伝ってほしいとのことである。

パーシィ:へえ……。
サナギ :犬探しかぁ。

 そろそろ依頼は選びたい、ロマンあふれる冒険がしたい、と勝手なことを言い出す面々。親父さんは呆れて、報酬が書かれた部分を指し示した。
 成功で2000sp、と書かれている。

パーシィ:2000sp。
タンジェ:マジかよ。
サナギ :うまみがありすぎて怖い

 親父さんも、名家と言ってもあくまで子息個人での依頼であり、信頼性があるとは言い切れない、と言う。

緑玉  :ここに来たんでしょ? ……どんなやつだった?

 緑玉が問うと、親父さんは「来たのは召使いで本人ではなかったが、いたって普通の召使いだったな」と答えた。

サナギ :ううん……まあ当たり前かあ。詳細は屋敷で、って書いてあるし。

 富豪ゆえに対価がよく分からないだけだと信じたいが、裏がないという保証はない。

黒曜  :……あるだろうな、裏。
タンジェ:召使いだけで探せばいいものを、高額出して冒険者に依頼してる時点で黒だろ。
パーシィ:たかが犬探しに信頼性を考えるなんて馬鹿げた話じゃないか?
アノニム:怪しいが、今日一日で2000sp稼げる可能性があるなら、行くだけ行くのもいいんじゃねえのか。いざとなったら帰ってくりゃいいだろうが。リューン内に限れば、大事があってもどうにでもなる。
黒曜  :そうだな。……行こう。

 一同は席を立ち、木の葉通りへと向かった。



【木の葉通り、ディトーニ邸】

緑玉  :うわ、すっごい豪邸……。

 富裕層集う木の葉通りの中でも、ひときわ目立つ邸宅。今回の依頼人『ヨハン』の居宅だ。
 広大な敷地は白い塀で囲われ、黒曜一行が立つ地点から屋敷の前までを大理石造りの道が結んでいる。
 庭園では白一色のサザンカが咲き乱れており、高貴で潔癖な雰囲気を一層醸し出している。
 そのあまりの豪奢さに、

サナギ :ひょっとしてただのおいしい依頼かな? これ。
タンジェ:さあな……。

 そこで一同に声がかかった。振り向けば、燕尾服の男性がこちらを伺っている。

緑玉  :使用人か……。
黒曜  :犬探しの依頼の話を聞きに来た、星数えの夜会だ。

 黒曜の言葉に、ではヨハン様の、と言い、使用人は邸宅の中へと一同を案内した。


【ディトーニ邸 客間】

 ほどなくして依頼人の青年が現れた。
「お待たせしました、冒険者の皆さん。今日はきてくれてありがとう」
 白を通り越して土気色の肌に、光の通らない灰色の瞳。
 さらに無理やり指で形作ったかのようないびつな微笑み。
 あまり、まともな様子には見えなかった。

サナギ :人間かどうかも怪しいね。
タンジェ:依頼人と戦う未来が見えてきたな。
パーシィ:殺気はないけど、武器は準備しておいたほうがいいかもしれないな。



黒曜  :失礼。冒険者というのは猫よりも用心深い生き物でな。

 依頼人の青年ヨハンは、咳ばらいをしたあと依頼について語り始めた。
「気になることがあれば、どんどん聞いてください。張り紙はあっさりしすぎていたと思うし……あからさまに怪しまれてるみたいですからね」
 まず、依頼の内容は、張り紙に書いたとおり犬探しである。
「大事に飼っていたぼくの家族が、今朝の散歩で逃げ出してしまったのです」

 曰く、突然の出来事だった。普段はヨハンによく懐き、首輪がなくてもきちんということを聞いていた。
 今朝だけは何を言っても聞く耳を持たず、制止の声もむなしく、ひとりで庭の外へ駆け出していってしまった。
 探し始めてはいるが、何分、めずらしい種類の犬である。誰かに捕まったらと思うと不安で仕方ない。一刻も早く見つけ出してほしいと思い、依頼を出したのだと。

アノニム:使用人を使うのはダメなのかよ。

「もうとっくに使用人のほとんどは出払っていて、ここにはぼくと先ほどの執事しかいないんですよ」とヨハンは答えた。その使用人たちが探しているのも、あくまで安全な都市の中。戦う技術はないからだ。
「もし依頼を請けていただけるのであれば、冒険者さんたちには、妖魔の出る可能性のある森のほうを探していただくことになります」

パーシィ:なるほど。危険区域の担当か。それなら依頼の理由にも納得がいくな。

 当たり前ですけど、とヨハンは黒曜たちに念押しした。「見つけた場合は無事に保護した状態で連れて帰ってくださいね。二度と動かない状態での再会はごめんですから……」

サナギ:分かってるよ。

 次にヨハンは報酬について話し始めた。成功報酬は張り紙に書いたとおりの2000sp。前金で300spを支払ってくれる。

タンジェ:これがそもそもおかしいんだよな。なんでこんなにも高額なんだ?

「本気で探してほしいからですよ。家族の命には代えられません。危険区域を探すことと、無事に保護することを考えれば、ぼくとしてはこれで妥当かなと」

緑玉  :そういうもの……?
サナギ :まあ、本人がそう思ってるのなら、それでいいんじゃない? こんなチャンス滅多にないしね!
アノニム:ほかの使用人どもが犬を探し出した場合だの、見つからなかった場合の報酬はどうなるんだ。

 ヨハンは、ほかの使用人が犬を探し出した場合、つまり犬が無事だった場合は1000sp。
 見つからなかった、もしくは無事ではなかった場合は前金の300spのみだと答えた。

タンジェ:失敗しても300spか。悪くねーな。もともと犬探しの依頼なんざ300sp程度で事足りるし。
黒曜  :犬の種類や特徴なんかを教えてもらえると助かるんだが。

「そうですね。まず種類ですが、」




緑玉  :どうしたい
パーシィ:犬じゃない
アノニム:ゾンビ捕獲だ。


サナギ :やばいやつだこれ。
パーシィ:名家の子息がゾンビ飼ってるぞ。

「許されませんか?」

パーシィ:当たり前だろ!! 死者の肉体を弄ぶなんて、神への冒涜だ!
緑玉  :まともな聖職者っぽいこと言えるんだね。
黒曜  :……そうだな。見過ごすのは難しい。このことが聖北教会の人間に知られでもしたら、関わった俺たちごと火あぶりだ。現に一人、ここで怒っているのもいるし。

 ヨハンは数秒の沈黙のあと、
「ぼくは、ぼくの犬に関わることで、今この事件以外で世間さまに迷惑をかけたことはありません。
動死体にすることは生前の姿から了承を得ましたし、これまで本当の家族のように可愛がってきました」
 そのためか、ぼく自身の身体はこんなにも気味悪くなってしまいましたけれどね、と言いながら、そこには自嘲の様子すら見られなかった。

緑玉  :飼い主がペットに似るのか。
タンジェ:いや、それは違うと思う。

 断ってもらっても結構だが、この話は他言無用でお願いする、とヨハンは言った。
「ぼくはペットと静かに暮らしたい。ことを荒立てるのは嫌なんです」

サナギ :もし聖北に情報を売れば?

「売る前に片をつけましょう。穏便に済ませるためなら、盗賊ギルドと手を組むなど造作もないことです」

緑玉  :……。

 信頼と実績ある冒険者の方々に任せるよう、宿の親父さんには頼みましたからね、とヨハンは言った。
「あなたたちは、そんな悪行じみたことはなさらないと信じていますよ」

タンジェ:どっちが悪行じみてるんだか。

 ヨハンは再度咳払いして、続きを話し始めた。
「種類は動死体。名前はバレリア。マリンブルーの美しい髪と、白磁の肌を持つ女の子です。
生前は修道院の出でして、今でも修道服を身にまとっています」

黒曜  :修道服のゾンビ……。
パーシィ:めまいがしてきた。
タンジェ:そんな繊細なやつじゃねえだろてめえはよ。

「丁寧に管理してあるので、盗賊や死霊術使いの方でなければ彼女の腐臭は感じづらいかもしれません」

パーシィ:それは逆にありがたい。ゾンビと関わったあとはなかなか臭いがとれないからな。
タンジェ:おう、まあ、そういうやつだよてめぇは。

 バレリアは言葉を理解できないので、説得はできない。
 マイペースな子だが、ヨハン以外にはあまり懐かないので、襲い掛かることもあるかもしれない。
 防衛や捕獲に適した応戦は構わないが、修復不可能な傷を残したりはしないでほしい。胸が痛むから。
 一番使ってはいけないのはもちろん亡者退散だ。本気で怒ります、と。

黒曜  :……だそうだ。抑えろ、パーシィ。
パーシィ:できるなら依頼人ごと亡者退散したいくらいだが。

 一同は目くばせをしたあと、依頼を受ける旨をヨハンに伝えた。

黒曜  :あくまで何かあっても"犬"探しとして捉えよう。
緑玉  :俺たちは今日ゾンビじゃなく犬を探す。
アノニム:死霊術師なんざ見なかった。
タンジェ:お前らなあ……。

 ヨハンは感謝の意を述べ、さっそく森に向かうよう指示した。それから、前金の300spを受け取る。
 残りはのちほど。とりあえずは300spで必要な物資を揃えることになる。
「それではバレリアを、よろしくお願いします」
 一同はディトーニ邸を辞した。

アノニム:酷い依頼だったな。
サナギ :にわかには信じがたいよね。名家の子息が死霊術師で、ゾンビをペットにしてるなんて、リューンタイムズ格好のネタだよ。どうして今まで噂の一つも立たなかったのやら。
緑玉  :噂をもみ消すほどの財力、財力、財力……。
アノニム:ふん、結局は金か。
パーシィ:そのおこぼれをいただくために頑張ろうじゃないか。今夜はたらふく食べられるぞ!
タンジェ:てめぇの切り替えの早さどうなってんだよ。


【木の葉通り】

 一同は木の葉通りを歩く。森に入る前に、バレリアを確保するための道具が必要だろう。
 たまたま目に入った雑貨屋に足を踏み入れると、女性の店員が対応した。
 傷薬、聖水、宝石などを販促し、ディトーニという家の息子が婚約者を亡くしたが最近は笑顔を見せるようになった、と語った。

サナギ :ディトーニというと、ヨハン……依頼人のことだね。
パーシィ:……つまり、バレリアはヨハンの婚約者なのだろうか? この場合、元、か。
黒曜  :その点に深入りする必要はない。
タンジェ:はっ。もっともだ。

 聞こえないように会話する一同を尻目に、自分には恋人がいないので時間が癒してくれるような傷もないとか、他愛ない雑談をする中で、店員は不意にパーティの中に恋仲がいるかを尋ねた。
 黒曜が応じ、自分とタンジェを指さす。突然のことにタンジェは動揺し、数瞬、挙動不審になったが、最終的には頷いた。
 店員はサービスだと言って指輪を手渡した。安物だから売れないが、お守りとしての効果はある、という。
 黒曜は受け取り、「ありがとう」と言う。
 その間にてんで雑貨を見ていた仲間たちは、バレリアの確保に使えるかもしれないと拘束縄を見繕い、購入した。


【ネグラの森】

 ネグラの森はリューンの裏門を通ったすぐ先、新緑に覆われている森林区域を指す。 
 一日で探索できる程度の広さで迷うことはないものの、ゴブリンやコボルトといった下級妖魔が出没することもあるため、一般人が寄り付くことはなかった。
 タンジェは手早く周囲を観察し、道に何かを引きずった痕跡があることを発見した。

タンジェ:感覚とサイズから見るに、人かゴブリンほどの生物の両手足。依頼人の言っていた動死体は這い這いの体勢で動くらしいじゃねえか。
黒曜  :なるほど。この跡をたどれば……。
タンジェ:すぐにたどり着ける、と、よかったんだが。

 タンジェが指し示した地面には、あっちこっちに跡がついており、めちゃくちゃになっている。

タンジェ:しらみつぶしに探すなり、じっくり鑑定するなりするしかねえな。

 一同は草をかき分けながら森を進む。
 しばらく進むと、人影が見えた。



パーシィ:……あれか?
緑玉  :マリンブルーの髪、白磁の肌、修道服……。合ってはいるし、どことなくゾンビっぽいから、あれだとは思うけど。
黒曜  :どう捕まえたものか。
タンジェ:とりあえず、さっき買った縄を使ってみようぜ。

 タンジェは手早く縄を繰り、動死体を拘束した。

タンジェ:よし、捕まえたぜ。
黒曜  :さすが拘束縄、頼りになる縛りぶりだ。

 だが、目の前でバレリアは拘束縄を勢いよくぶち破った!

タンジェ:あァ!? 怪力無双かよ!
アノニム:何やってやがる! 逃げ出したぞ!
タンジェ:力比べならまだしも、縄が破られたのは俺のせいじゃねえだろ! くそ……意外と速ぇ!!
パーシィ:追いかけよう!

 逃げ出すバレリアを追いかける一同。しかしバレリアはなかなか捕まらない。

タンジェ:くそっ、このままじゃ埒が明かねえぞ!
サナギ :俺たちが動くと、あの動死体も当然動くわけだから……なんとか先回りしておきたいところだよね。
パーシィ:できるのか? あの動死体は俺たちから逃げているんだぞ?
サナギ :行き止まりに追い詰める。それか、道中に罠やあの動死体が嫌うものを置いて進行方向を変えればいい。追い詰めたあと、動死体を安全に捕獲できるものも必要だね。
パーシィ:嫌うもの、……聖水、かな。簡単で、今手持ちにあるものといえば。
タンジェ:しかし捕まえたあと、拘束縄はぶち破られちまうし……。

 と言っている間に、一同はバレリアに追いついた。
 縄を再び使ってみるも、やはりこの程度の縄ではぶち破られてしまう。
 そんなことをしている間に、こちらの敵意に反応してしまったバレリアが襲い掛かってきた!

サナギ :うわあ、相当怒ってるよ。大丈夫かなこれ。
アノニム:めんどくせぇと思ってたところだ、ぶん殴って連れていこうぜ。
タンジェ:はっ、てめぇと意見が合うとはな!

 バレリアは強く抵抗したが、一同はバレリアを沈黙させることに成功した。
 バレリアは四つん這いの体制を崩し、横向きに倒れると、そのままぴくりとも動かなくなってしまった。

黒曜  :……。
タンジェ:……大丈夫だよな? 死んじまったとか……。
サナギ :大丈夫だと思うよ、今まで戦ってきたゾンビだって、倒れては蘇ってきたじゃないか。
アノニム:だな。
黒曜  :ともあれ依頼は達成か。傷だらけにしてしまったが。
サナギ :仕方ないよ。あれだけ暴れられたら誰だってこうするしかないよ。今のうちに連れて帰ろう。また戦うことになるのはごめんだからね。

 倒れたバレリアを担ぐ。パーシィはバレリアの右手が強く拳を握り、何か小さなものを握りしめているのに気付いた。
 握りしめていたのは、白薔薇のブローチだった。

緑玉  :……バレリアのもの?
パーシィ:どこかで盗んだわけでないのなら、そうだろう。
サナギ :いったん預かっておこうか。

 途中、コボルトと遭遇するなどしたが、おおむね滞りなく一同はリューンへ帰還した。



【木の葉通り、ディトーニ邸】

 一同が邸宅に戻ると、燕尾服の使用人が驚きの表情でこちらへ駆け寄ってきた。
 使用人がバレリアの名を呼ぶと。バレリアは目覚め、「だ」と、人語とも言えない声を発した。

黒曜  :目が覚めたみたいだな。

 使用人はすぐにヨハンを呼ぶと言ったが、黒曜一行はこのままバレリアとともに客間へ上がらせてもらうことにし、入室した。
 依頼人・ヨハンは這い寄るバレリアを愛しそうに抱きしめた。
 動死体特有の臭いや腐肉のべとつきを気にもせず、純粋に再会の喜びを噛みしめている。
「ああ、よかった……無事だったんだね、バレリア」

パーシィ:あなたの言っていた例の森にいたよ。そこら中をうろつき回ってた。
緑玉  :それと、これ。バレリアが握りしめてた。

 緑玉はさきほどバレリアの手から回収した白薔薇のブローチをヨハンに手渡した。
 ヨハンはそれを受け取ると、「そうか」と納得したように呟いた。「そういうことだったんだね、バレリア」

タンジェ:そのブローチが、何か?

「これは、生前のバレリアにぼくがプレゼントしたブローチです。森を抜け、町へゆくときになくしたことを、彼女はずっと気に病んでいました」
 ヨハンは、ただ呻き声を漏らすだけのバレリアに、そっと目線を合わせた。
「きみは、こんな姿になってしまっても、ずっと覚えていてくれたんだね。ありがとう、バレリア……」
 それからより一層、バレリアを抱きしめた。
 対するバレリアは、ヨハンの抱擁を受け止めてはいるものの、相変わらずの無表情で、視線は宙を泳ぎ、呻き声を上げるばかり。

黒曜  :……サナギ。
サナギ :ん、どうしたの?
黒曜  :動死体が生前の記憶を持つなんて、できるものなのか。
サナギ :……。
できるわけないよ。あくまであれはただの傀儡。死んだ人間の精神は二度と戻らない。
今回逃げ出した原因だって、あのブローチが大事だっていう主の意志と命令が刻まれていたからにすぎないんだよ。
だから森へ行くことも知っていた。まったく、とんだお芝居だよ。
黒曜  :そうか。……やはり、そうだよな。
サナギ :まあでも、あの依頼人は動死体を操れるだけの知識を持っているんだし、動死体のことも全部分かってて言ってるんだと思うよ。
分かっているからこそ逃げたくなるのが現実さ。

 ヨハンはそっとバレリアから離れ、黒曜一行に改めて礼を述べたあと、残りの報酬を手渡した。
 300spは前金で受け取っていたため、残りは1700sp。大きな額だ。
 一同は革袋の重みを確かめ、各々喜んだ。ヨハンは一同の反応を待ってから、
「今回は本当に助かりました。次に何かあっても、またあなたたちに依頼することにしますよ」

緑玉  :今回以上に、いろんな意味で危ないのは遠慮したいんだけど。……まあ、機会があれば、また。

 一同はヨハンに適当にあいさつして、客間を出ていく。黒曜だけが、その場に立ち尽くしている。
 残った黒曜に不思議そうな顔を向けるヨハン。ほどなくタンジェが客間に戻り、

タンジェ:どうしたんだ、黒曜? 帰ろうぜ。
黒曜  :ヨハン。その子の身体を、土に還してやるつもりはないのか。
タンジェ:おい黒曜、今回のことは深入りしねえって話だっただろうが。

 ヨハンは首を横に振った。気になるのは当たり前だ、と言い添え、
「ぼくは、ぼく自身が死ぬまで、彼女を解放するつもりはありません」

黒曜  :……何故?

 ヨハンはバレリアをそばに呼び、肩を抱いた。
「この子はぼくの婚約者でした。不治の病を前に死んでしまった、大好きな婚約者。
死人の魂は二度と戻ってこない。こんなことをしたって、本当の彼女は戻ってこない。
……頭で分かっていても、駄目なんです。
彼女が失われ、彼女と育んできた感情や記憶が褪せてゆくことを、本能が拒絶するんです。
弱いやつです。笑ってやってください。
ぼくは、恋人を屍の従者にしてでも、恋人との思い出を繋ぎとめようとする愚か者です。
……この子はもう、二度と笑わないけれど、これで、この先、」




タンジェ:あっという間に日が暮れたな。あいつら、置いていきやがって。
黒曜  :……。
タンジェ:まだ納得がいかねえのか、黒曜。死を受け止められない弱い人間だっている。それでいいじゃねえか。
黒曜  :それは分かっている。分かっているからこそ、あの依頼人のことを否定しきれず、そんな自分が嫌になる。実際にあの依頼人と同じ立場になったら、俺も同じ選択をするかもしれない。
タンジェ:黒曜。
黒曜  :もし俺が突然死んでしまったとして。
目の前に形だけでも蘇らせる方法があったなら……タンジェはどうする。
タンジェ:俺だったら? ……。
俺は、黒曜が死んだとしても、受け入れる
死んだ黒曜を拒絶して、仮初の生に夢を見るなんてことは絶対にしない。
……俺が大事に思ってんのは、動死体じゃあねえ。黒曜なんだからな。
黒曜  :……そうか。
タンジェ:ああ、だからって安心して死ねるだなんて思うんじゃねえぞ。そもそもそのくだらねえ仮定が現実にならなけりゃあいいだけの話だ。
確かに冒険者ってやつはいつ死んだっておかしくねえ稼業だけどよ、俺がいる限りは黒曜を死なせやしない。
守ってみせる。絶対に。
黒曜  :ありがとう。
そういうタンジェだから、安心して背中を預けられるんだ。
 





「屍の恋人」でした。
 まずは本当に素晴らしいシナリオを作ってくださった作者様に最大の感謝を! ありがとうございました。

 残された側の弱い人間の心とか、死んだ人を死霊術で蘇らせることの是非とか(差し挟まるバトルでバレリア嬢を暴露すると見られる解説も含め)を、全体的にごくシンプルに描写しつつも深いところまでうま~く読ませてくれるシナリオですよねッ!
 それでいてところどころに差し挟まるデデドン!SEとかテンポやノリがかなりギャグ寄りで面白く、テーマのわりに全編通して陰鬱さがなくまとまっていてどのPTでも遊びやすいシナリオだと思います!

 たぶんバレリア嬢をもうちょっと穏便に連れていく方法があるんじゃないかとは思うのですが、毎回脳筋対応になってしまって申し訳ないです……ww

 読んでいただいた皆様にも深い感謝を! 素晴らしい機会をありがとうございました!


 ここからはもっと直情的な感想になります。主に宿PCとシナリオの嚙み合わせのよさについて語りますのでそういうの興味ない人は別に読む必要はないです!(笑

 この<星数えの夜会>を筆頭とした合同宿を作って以来、たまに鳥子(黒曜緑玉アノニムの製作者です)がCWのプレイに付き合ってくれているのですが、その中で鳥子が気に入っているシナリオの一つがこの『屍の恋人』です。鳥子はもともとこういうお話が好きな人なので気に入ったのは納得なのですが、初見ではなかった私まで うおーーーー!!!!!! 良い……!!!!!!!!!! になったのは、ラストの黒タン(黒曜×タンジェの恋仲)のやり取りの賜物だと思います。

 最後のところォ……! 恋仲相手の死を受け入れられるかどうかの選択肢が表示されるのが手厚くてェ……!! タンジェが死を受け入れずに仮初の生に縋るわけがないんですよ……ッ!!!!!!!!!!!! 言う……!! こいつはこれを普通の顔で言うんだッ……!!!!!!!!
 でも黒曜のほうはワンチャンやりかねないのもまた分かる(するかもしれない、という自己分析できてる部分もまた……)。
 死の話をしながらにして強靭な、眩いばかりの未来への約束……! 光か……ッ!
 俺は焼き付くほどの光のタンジェが好きでねェ~ッ!(妖怪)
 闇の黒曜と光のタンジェが合わさり最強に見える

 夜会そのものがおふざけやや控えめ気味のPTなので遊び要素はさほど入れられませんでしたが、それほど注力して遊びを入れようとしなくても程よくPCっぽい台詞を喋ってくれるのもウレシイ!
 全部分かってるサナギが、同じく全部分かっている依頼人ヨハン氏に、特別何かを言い含めることもなく、かといって過度な同情をするわけでもなくさっぱりしているところが好きですね……。
 聖職者のパーシィも丁寧なクーポン対応があるものの、以降おおむね汎用っぽいセリフを割り当てられてめちゃくちゃ切り替えが早いように見えるのもツボでしたww

 ところでたまたま投稿日ハロウィンなんですけど、ゾンビ捕獲……ある意味ハロウィンっぽい話ではあるのか……? と思いながらこれを書いています。


 お目汚しを失礼しました。
 難解なところもなく、シンプルに作られたアドベンチャーで、深みのあるストーリーがPCたちの死生観について考えさせてくれるシナリオです。
 プレイ時間も短いですし、いい意味で簡単でかなり読み物に近いシナリオなので、未プレイの方はぜひ! 既プレイの方は再プレイも一考を!

 重ねて、シナリオ作者様とここまで読んでくださった方に多大な感謝を!
 ありがとうございました!

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